衛星の“時刻差”だけで場所を割り出す、天文学的に精密な科学
■ はじめに
地図アプリを開けば、
スマホの位置がほぼリアルタイムで表示される。
カーナビは迷わず目的地まで案内してくれる。
ジョギングやゴルフの距離計測にも GPS は欠かせません。
しかしこれらの位置特定は
“電波の到達時刻のズレ”だけ
を使って計算している、と聞くと驚くかもしれません。
しかも、地球の周りを回る
約2万km上空の衛星から送られる信号を使います。
今回は、
GPSが「時刻差だけで」地球上の位置を割り出す仕組み
を徹底的に解説します。
1. GPS衛星は「超精密な時計」を持った“空の灯台”
GPS衛星(GNSS)は
地上 約20,200km の軌道を
1秒の誤差もほぼ許されない原子時計とともに飛んでいます。
この衛星が
- 自分の“正確な時刻”
- 自分の“正確な位置”
- 時刻情報を含む電波
を地上へ送り続けています。
2. “電波の遅れ=距離”になる
電波の速度は 光速(約30万km/s)。
なので、
もし衛星からの電波が
0.067秒遅れて届いた としたら、
距離は
0.067秒 × 30万km = 約20,000km
となります。
GPSは
各衛星から届く“電波の遅れ”を測ることで
衛星との距離を求める仕組み
です。
3. 距離がわかると、位置は“交点”で決まる
例えば、
衛星Aからの距離=20,000km
衛星Bからの距離=21,000km
衛星Cからの距離=19,500km
とわかれば、
その3つの距離球の“交点”があなたのいる場所になります。
しかし実際は、
まだ1つ変数が足りません。
4. スマホの時計は“狂っている前提”
衛星の時計は原子時計で超精密ですが、
スマホの時計はそこまでの精度を持ちません。
なので、
スマホ自身の時刻のズレも計算しないと位置は求まりません。
このズレを求めるために
最低 4つの衛星 が必要になります。
5. GPS測位の大原則
- 衛星 3つ → 位置の3次元計算
- 衛星 1つ → スマホ内部の時刻ズレ補正
→ 合計 4つの衛星で“正確な位置”が出る というわけです。
よく「GPSは4つの衛星で計算する」と言われるのはこのため。
6. 誤差の原因は多い
位置がずれる理由は主にこの5つ。
✔ 電離層・対流圏で電波が遅れる
地球の大気で電波が減速する。
✔ 高層ビルで反射(マルチパス)
都会で位置が暴れるのはこれ。
✔ 衛星の配置が悪い(DOPが高い)
衛星が偏った方向にあると精度が下がる。
✔ スマホのアンテナ特性
安いデバイスほど誤差大。
✔ 木の葉・天候の影響
特に山奥は精度が落ちやすい。
GPSは
“単純な仕組みなのに誤差要因が多い”
という技術です。
7. スマホはGPS単体では動いていない
スマホの位置測位は
複数の技術の合成 で行われています。
✔ A-GPS( Assisted GPS )
基地局からの補助データで初期取得が高速化。
✔ GLONASS(ロシア)
GPSに似た仕組み。
✔ Galileo(EU)
高精度で最近のスマホでは標準化。
✔ BeiDou(中国)
衛星数が多く高性能。
✔ QZSS(日本の「みちびき」)
日本の真上を通るため精度が爆上がり。
→ 最近のスマホは
4〜5種類の衛星を混ぜて位置を出す“マルチGNSS”
が当たり前です。
8. みちびき(QZSS)が日本でGPSを劇的に強くする
日本上空には
“常に1つは真上にいる”
ように配置された準天頂衛星があります。
特徴:
- 都会(ビル街)でも電波が通りやすい
- 高精度測位(cm級測位)に対応
- 道路ナビゲーションに強い
日本のスマホGPSが優秀なのは
みちびき(QZSS)のおかげと言えます。
9. 最新のGPSは“誤差数cm”の世界へ
近年は RTK測位 と呼ばれる仕組みで
誤差が“数cm”まで縮みました。
ドローン、自動運転、建設機械など産業用途では必須。
スマホでも一部対応が始まっています。
■ まとめ:GPSは「時刻差の科学」
GPSの本質は単純です。
- 衛星から送られる“時刻”を見る
- その遅れ=距離を計算する
- 複数の距離の交点=自分の位置
- 最低4つの衛星で時刻ズレも補正
超シンプルですが、
誤差補正と複数衛星の組み合わせにより、
世界中どこでもスマホの位置がリアルタイムにわかります。
まさに
**“時計がつくる地球規模の測位システム”**です。


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