数cmで通信が成立する“電磁誘導”の科学
■ はじめに
スマホをかざすだけで決済できる。
電車に乗れる。
鍵を開けられる。
この“タッチで完結する魔法”の裏側には、
NFC(Near Field Communication)=近距離無線通信技術
が使われています。
BluetoothやWi-Fiが「数m〜数十m」で通信するのに対し、
NFCは わずか数cm。
なのに
- 認証は高速
- めったに誤動作しない
- セキュリティが強い
という独特の性質を持ちます。
今回は、この“超短距離通信”がどう動いているのかを
AIが徹底解説します。
1. NFCは「電波」ではなく“電磁誘導”で通信する
BluetoothやWi-Fiは 電波(電界の伝搬) を使いますが、
NFCはほとんど 電磁誘導 を利用しています。
これは、
スマホの中の“コイル”と、
端末側(リーダー)の“コイル”が、
互いに磁界でつながる仕組み。
つまりNFCは、
ICカードとスマホのコイル同士がミニ発電機のように作用して通信しています。
2. NFCのコイル構造 (ざっくり図解)
┌─────────┐ ┌─────────┐
│ リーダー側 │◀──▶│ スマホ側 │
│ (改札・端末) │ │ (IC / NFC) │
│ コイル │ │ コイル │
└─────────┘ └─────────┘
2つのコイルが
数cm以内で磁界を共有することで
通信が成立します。
3. なぜ“数cm”なのか?
理由は3つ:
✔① 電磁誘導は距離に弱い
距離が2倍になると磁界は急激に弱くなるため、
通信範囲は「近距離」に限定される。
✔② セキュリティを高めるため
遠距離で勝手に読み取られると危険。
わざと近距離限定にしている。
✔③ 低電力で済む
数cmならコイルを弱く動かすだけで通信できる。
→ Suica やクレカ決済に最適。
4. NFCの通信速度は遅いけど、それでいい
NFCの通信速度は最大424kbps。
Wi-Fi(数百Mbps〜Gbps)とは桁違い。
しかし NFC の目的は
“大量データではなく、確実な認証”。
必要なのは
- ID
- 鍵データ
- トークン
これだけ。
Bluetoothのように音声や動画を送る必要がないため、
低速でも十分です。
5. Suica(FeliCa)が速すぎる理由
Suica は NFC の上位互換技術である
FeliCa(フェリカ) を採用。
特徴:
- 読み取り速度が非常に速い(200ms以内)
- 鍵交換が専用プロトコルで安全
- 日本の改札の処理速度に最適化
Suicaの“シュッ”と通れるスピードは、
FeliCaの高速認証が理由です。
6. スマホ決済(Apple Pay / Google Pay)の動き
スマホのNFC決済は
カードの情報がそのまま出ていません。
仕組み:
✔① カード番号の代わりに「トークン」を生成
- 実カード番号を使わず
- 一時的・限定的に使える番号を生成
→ 万が一盗まれても無効化できる
✔② 端末内のセキュア領域(Secure Element)に保存
- OSからもアプリからも読み取れない
- Android は「SE / HCE」
- iPhone は「Secure Enclave」
✔③ NFCで端末 → リーダーへ伝送
カード本体を模倣して動く
これにより
カード情報を保持せずにカードとして振る舞う
安全性が実現されます。
7. NFCは3モードある
NFCには、実は3つのモードが存在します。
✔① リーダー/ライターモード
スマホ → カードの情報を読み取る
(駅の改札 / ICカード読み取りアプリ)
✔② カードエミュレーションモード
スマホ → カードのふりをする
(Apple Pay / Google Pay)
✔③ ピア・ツー・ピアモード
スマホ ↔ スマホ
(Android Beam などの端末間通信)
Suicaは②を使っています。
8. “タッチ決済の安全性”はなぜ高い?
理由は次のとおり👇
- 距離が数cm → 盗聴しにくい
- 暗号鍵とトークンを使う
- Secure Element が外部アクセス不可
- カード番号を送らない
- 取引ごとに別トークン
つまり 非接触カード決済は物理&暗号の二重で安全です。
■ まとめ:NFCは“近距離専用の安全な通信技術”
- コイル同士の“電磁誘導”で通信
- 数cmという距離制限がセキュリティを強化
- データは少なくてよいため低速でOK
- SuicaはFeliCaでさらに高速
- スマホ決済はトークン化で安全性が高い
NFCは「非接触決済」という結果だけを見ると地味ですが、
実際には
物理学 × 無線通信 × 暗号技術が融合した高度なシステム
なのです。


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