なぜ“速くて安定”してつながるのか ― 電波・制御・規格進化の科学
はじめに
Wi-Fiは、もはや生活インフラです。
スマホ、PC、テレビ、家電、IoT機器まで、
家庭内の通信の大半はWi-Fiが担っています。
それなのに、
- 近づくと速い
- 壁を挟むと遅い
- 同時接続が増えると不安定
- ルーターを替えたら急に改善した
こうした挙動の理由を、
ちゃんと説明できる記事は意外と少ない。
今回は
Wi-Fiが「なぜ速く・なぜ不安定になり・なぜ世代で差が出るのか」
を、電波の物理と通信制御の両面から解説します。
1. Wi-Fiは「電波という共有資源」を使う通信
Wi-Fiは無線LAN。
ケーブルの代わりに 電波 を使います。
重要なのは、
Wi-Fiの電波は「みんなで共有」している という点。
- 同じ周波数帯
- 同じ空間
- 同じ時間
を、複数の端末が奪い合う構造です。
この「共有前提」が、
Wi-Fi特有の“速かったり遅かったり”を生みます。
2. 周波数帯の違いが性格を決める
Wi-Fiには主に3つの帯域があります。
● 2.4GHz
- 遠くまで届く
- 壁に強い
- その代わり 混雑しやすい
(電子レンジ・Bluetoothとも干渉)
● 5GHz
- 高速
- チャネルが広い
- 壁に弱い
● 6GHz(Wi-Fi 6E以降)
- ほぼ空いている
- 超高速・低遅延
- さらに壁に弱い
つまりWi-Fiは
「距離・速度・安定性のトレードオフ」 を
帯域選択で調整しています。
3. 速度の正体は「並列化」と「効率」
Wi-Fiが世代ごとに速くなる理由は、
単純な電波出力アップではありません。
● OFDM / OFDMA
電波を細かく分割し、
複数端末へ同時に送る 技術。
- 昔:1人ずつ順番
- 今:同時に少しずつ配布
→ 混雑に強い。
● MIMO / MU-MIMO
複数アンテナで
空間的に同時通信。
→ 端末が増えても速度低下しにくい。
4. 「速い回線なのに遅い家」の正体
これは多くの人がハマるポイント。
よくある誤解
- 光回線が遅い
→ 実は Wi-Fi側がボトルネック
原因は:
- ルーターの処理能力不足
- 古いWi-Fi規格
- 壁・床による減衰
- 端末が2.4GHzに張り付いている
- 電波が反射・干渉している
回線速度 ≠ Wi-Fi速度
ここを理解するだけで、
ネット環境の見え方が変わります。
5. なぜ壁があると急に遅くなる?
電波は万能ではありません。
- コンクリート
- 水(浴室・キッチン)
- 金属
これらは 電波を吸収・反射 します。
さらに、
反射した電波が重なると
位相ずれ=干渉 が起き、
通信品質が落ちます。
これが
「部屋によって速度が違う」正体。
6. 中継機とメッシュWi-Fiの違い
● 中継機
- 電波を受けて再送
- 簡単だが 遅延が増えやすい
● メッシュWi-Fi
- 複数ノードが連携
- 自動で最適経路を選択
- 家全体を1つのWi-Fi空間に
広い家・階層構造では
メッシュが圧倒的に有利。
7. 有線LANが「安定最強」な理由
Wi-Fiと有線の本質的な違い。
| 項目 | Wi-Fi | 有線LAN |
|---|---|---|
| 媒体 | 電波 | ケーブル |
| 共有 | あり | なし |
| 干渉 | あり | ほぼなし |
| 遅延 | 変動 | 一定 |
| 安定性 | 環境依存 | 非常に高い |
だから
- ゲーム
- 配信
- 仕事用PC
は今でも有線が推奨されます。
8. 規格進化で何が変わったか
Wi-Fi 5
- 高速だが多端末に弱い
Wi-Fi 6
- 多端末・低遅延
- バッテリー効率改善
Wi-Fi 6E / 7
- 6GHz帯解放
- 超低遅延
- AR / VR / 8K対応
進化の方向は一貫しています。
「速さ」より「混雑耐性」と「安定性」
まとめ
Wi-Fiは、
- 電波という不安定な媒体
- 共有前提の通信
- 環境依存の物理現象
という制約の中で、
- 並列化
- 効率化
- 規格進化
によって
「家庭インフラとして十分使える安定性」
を実現してきた技術です。
遅いと感じたときは、
回線ではなく
Wi-Fiの構造そのもの を疑うのが正解です。
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