周波数ホッピングが守る “つながり続ける無線” の科学
■ はじめに
Bluetoothは、
イヤホン、キーボード、スマートウォッチ、車載機器…
いまや生活のほぼすべてのガジェットに使われています。
しかし Bluetooth の実態は
「毎秒1600回も周波数を切り替えながら繋がる通信技術」
だということを知っている人は多くありません。
なぜそんなことをする必要があるのか?
どうやって高速で周波数を変えながら通信を維持するのか?
なぜ混雑する場所でも比較的安定して使えるのか?
今回は、その“電波のダンス”の裏側を詳しく解説します。
1. Bluetoothは「短距離・低電力」が目的の通信規格
Wi-Fiは高速通信が得意ですが、消費電力が大きい。
Bluetoothはその逆で、
- 帯域は狭い
- 伝送速度も控えめ
- でも圧倒的に省電力
という特性を持っています。
目的は
“継続的につながり続ける”
身の回りの機器同士の通信
です。
そのため、Bluetoothは
省電力・安定性・耐干渉性 が最優先になっています。
2. 2.4GHz帯は“混雑地帯”
Bluetoothは 2.4GHz帯 を使います。
しかしここは他の無線技術と被っています。
- Wi-Fi(2.4GHz)
- 電子レンジ
- コードレス電話
- 無線マウス
- ゲームコントローラー
つまり Bluetooth は
めちゃくちゃ混雑している帯域で通信する宿命 を背負っています。
そこで登場するのが…
3. Bluetoothの最重要技術
✔ 周波数ホッピング(FHSS:Frequency Hopping Spread Spectrum)
Bluetoothは同じ周波数を使い続けるのではなく、
一瞬ごとに周波数を切り替えながら通信します。
そのスピードはなんと…
1秒間に約1600回(1,600 hops/s)
です。
■ なぜそんなに周波数を切り替えるのか?
✔① 混雑を避けるため
2.4GHzが混雑しているため、
もし1つの周波数を固定で使ったらすぐに干渉して使えなくなります。
ホッピングすれば
- ノイズがある周波数はすぐ抜ける
- クリーンな周波数だけを継続して利用 できる。
✔② 電波盗聴を難しくする
周波数が高速で変わるため、
「追いかけて盗聴する」のが非常に困難になります。
✔③ 低電力でも安定した通信ができる
Bluetoothは出力が弱い(最大でも約2.5mW)。
その代わりに
ホッピングで安定性を補強 しています。
4. Bluetoothは「マスター」と「スレーブ」で動く
(現在の用語は “Central” と “Peripheral”)
- スマホ側:Central(中心)
- イヤホン側:Peripheral(接続される側)
のように役割分担があります。
Central(マスター)が
ホッピングのタイミング(ホップシーケンス)
を生成し、
Peripheral(スレーブ)が
完全に同期して周波数を切り替える
ことで通信が成立。
これが Bluetooth のもっとも重要な仕組み。
5. Bluetoothの音が途切れる原因は?
Bluetoothが途切れる理由の99%は 干渉 です。
特に
- 2.4GHzのWi-Fiルータ
- 電子レンジ
- 同じ部屋のBluetooth機器 などが同時に動いていると、一時的に 良い周波数にホップできない → 音が途切れる という現象が起きます。
6. Bluetooth 5.0〜5.3で何が変わった?
Bluetoothはここ数年で大きく進化しています。
✔ Bluetooth 5.0
- 通信距離が2倍
- 速度が2倍
- 安定性大幅向上
✔ Bluetooth 5.1
- 方向推定(AoA/AoD) → 位置情報サービスが桁違いに強くなる
✔ Bluetooth 5.2(LE Audio登場)
- LC3コーデック
- 音質向上&省エネ
- イヤホンで同時共有(Auracast)
✔ Bluetooth 5.3
- 省電力化
- 混雑環境での安定性アップ
つまり Bluetooth は“地味”と言われがちですが、
実は毎年のように進化している最前線技術なのです。
7. イヤホンの左右はどう同期してる?(高度編)
完全ワイヤレスイヤホンは
- 片側(親)がスマホと通信
- もう片側(子)が親と通信 という 2段階通信構造 が一般的でした。
しかし
最新では LE Audio により
左右が独立してスマホと接続
できる時代へ。
遅延・途切れ・バッテリーが大幅に改善されています。
■ まとめ:Bluetoothは“電波のダンス”でつながる
- 混雑帯域で
- 低電力で
- 1600回/秒で周波数を切り替え
- 干渉を避け
- 安定して通信し
- 音声やデータを送り続ける
Bluetoothは、
無線技術の中でも特に“賢い制御”をしている通信方式 です。
毎秒のホッピングと高度な同期によって、
私たちのイヤホン・キーボード・スマートウォッチは
静かに動き続けています。
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